管理栄養士のそらです!
今回は管理栄養士として働き始めてから入学した社会人大学院のレポートの実例について書いています。
食管理特論の大学院レポート実例【課題1】
【課題1】
摂食嚥下障害者の経口摂取を可能とする食形態について、物理的特性力学的特性としての(テクスチャー特性、流動特性等)側面より解説してください。また、経口摂取することが、障害者のQOLや栄養状態(栄養評価に基づいて)にどのように影響するかについても考えてください。
こちらは1回不合格になったので書き直したものです(;’∀’)
摂食・嚥下障害者の経口摂取を可能とする食形態について、摂食・嚥下障害者では、摂食し嚥下するまでの過程で食形態は重要である。食品におけるテクスチャーとは、食品の硬さ、粘り、なめらかさ、もろさなど、食感に関する性質を表す用語である1)。また、テクスチャー特性とは、硬さや粘性率などその物質のもつ特有の性質で、歯や舌で食べ物を圧縮したときに感じる力に対応する物質値として、人の感覚と対応する2)。本レポートでは、摂食・嚥下障害者の経口摂取を可能とする食形態について、初めに物理的特性とはどのようなものかを解説し、次に、主な摂食・嚥下障害者のための食事の基準を説明し、それに基づき経口摂取を可能とする食形態について解説する。最後に、経口摂取が障害者のQOLや栄養状態にどのように影響するかについて考察することとする。
まず初めに、食品における物理的特性として、力学的特性である硬さ、付着性、凝集性、弾性や粘性率などの流動特性等があげられる3)。レオロジーとは、物質の変形と流動に関する科学であり、物質が力を加えられた際に示す弾性・変形・流動などの現象を研究する学問である4)。摂食・嚥下の面から、食品における物理的特性は、咀嚼しやすい硬さであるか、口の中でまとまり易いか、飲み込み易いか、誤嚥しないかなど、食事の際に口腔内で咀嚼し、唾液と混合して食塊を形成し、食塊が咽頭から食道を通過する過程に関連する重要な性質である5)。
次に、摂食・嚥下障害者のための食事の基準として主なものは4つあげられる。消費者庁から通知された「えん下困難者用食品の許可基準」では特別用途食品の1つとしてⅠ~Ⅲに分類され、硬さ、付着性、凝集性についてそれぞれの規格が定められている6)。2002年に日本介護食品協議会によって作成された「ユニバーサルデザインフード」では、容易にかめる、歯ぐきでつぶせる、舌でつぶせる、かまなくてよい、の4つに分けられ、食品の硬さや粘度の規格が提示されている。2004年に聖隷三方原病院の金子が発表した「嚥下食ピラミッド」では、L0~L6の6段階に分類されており、かたさ、凝集性、付着性などの物性が示されている7)。2013年に日本摂食・嚥下リハビリテーション学会が出した「嚥下調整食分類2013」では、リハビリテーションの観点から嚥下のレベルによって5段階に分けられ、それぞれに食品形態の凝集性、かたさ、付着性などの条件が、なめらか、べたつかず、まとまりやすいなどの表現で記されている8)。このように、主となる摂食・嚥下障害者のための食事の基準が定められている。また、中濱らは、摂食・嚥下機能が低下している人にとって重要となる食形態に、「咀嚼しやすい硬さかどうか」「口の中でまとまりやすいか」「飲み込みやすいか」の3点をあげている9)。このことから、摂食・嚥下障害者の経口摂取を可能とする食形態に必要なものとして硬さ、凝集性、付着性、粘度があげられるといえる。
では、摂食・嚥下障害者の経口摂取を可能とする食形態に必要な硬さ、凝集性、付着性、粘度はどのようなものであるか。まず初めに、硬さについて、食品における硬さとは一定速度で圧縮をしたときの抵抗の大小であり、硬さの基準はえん下困難者用食品の許可基準では2.5~20(103N/m2)、嚥下食ピラミッドでは2.0~40(103N/m2)とゼリー状から箸やスプーンで切れるものなど、軟らかく咽頭を通る際に変形しやすいものが望ましいとされている10)。次に、凝集性について、凝集性とは破壊後のまとまりやすさの指標である。凝集性は0から1の範囲で示され、1に近いほどまとまり易い11)。えん下困難者用食品における凝集性の許可基準は0.2~0.9、嚥下食ピラミッドでは0.2~1.0と定められている。奥野は嚥下しやすい食形態の条件として、適度な凝集性があることをあげ、単なる「キザミ食」などの口腔内や咽頭を通過するときにバラバラになる食品は嚥下が難しいため、片栗粉や増粘剤、ゼラチン等の食材を利用して、まとまりのある形態にすることが重要であるとしている12)。また、高橋らは摂食嚥下障害者におけるゼリー食を、軟らかく、付着性および凝集性が小さく、咀嚼および口中においてまとめる必要がない食形態であるとしていることから13)、食べ物によって適度な凝集性に違いがあるといえる。また、付着性について、付着性とは食物が口腔内にベタつく度合いのことである。えん下困難者用食品の許可基準では400以下~1500以下(J/m3)、嚥下食ピラミッドでは200以下~1000以下(J/m3)と、ベタつかずに咽頭を滑らかに通過するものが摂食・嚥下障害者の食形態の物性条件となる14)。
ここで、実際の調理の例からも摂食嚥下障害者の経口摂取を可能とする食形態について考察する。根菜類であるゴボウなど繊維の多い食べ物はかみ切りにくく、咀嚼しにくいため調理の工夫を行うことで食べやすいテクスチャーに変化させることが多い15)。高橋らは、食べやすいごぼうの特性について検討し、その結果ごぼうは加圧・加熱時間を長くし、表面積を大きくすることや繊維に対して斜め方向から咀嚼できるよう成形などを考慮することで、咀嚼しやすい硬さへ変化させることが可能になると述べている16)。同様に線維がある肉類の調理の工夫として、線維を切って再構成した肉(ミートボールのようなもの)のような、口の中でべたつかず、まとまりやすい軟らかい食肉は摂食嚥下障害者に適したものであるとしている17)。また、奥野らは、口腔内や咽頭に付着しやすく、のみこみが困難となる食材として、わかめ・のり・焼き芋などをあげ、調理の工夫として付着しない大きさに切り、適度な水分や脂肪分、増粘剤を補い適度な付着性にすることで飲み込みやすくなるとしている18)。以上のように、摂食・嚥下が難しい食材を摂食可能な食形態とするには、咀嚼しやすい硬さやべたつかず、まとまりやすく、適度な付着性が必要であるといえる。
最後に、粘度について、お茶など水分状の液体には、粘度をつけることで嚥下しやすくなるとされている。嚥下障害者にとって、水のような粘度の低い液体は誤って気管に入る可能性があるため、むせや誤嚥の原因となる可能性があるが、液体に適度な粘性をつけることで口腔内でまとまり、運動性も下がるので液体を送り込むスピードを遅らせることができる19)。水やお茶は増粘剤でとろみ付けやゼラチンを使ったゼリー状へ、また味噌汁やスープ類は片栗粉やルウでのとろみ付けで嚥下しやすい形状となる20)。嚥下調整食分類2013では、とろみの粘度を薄い(50~150mPa・s)、中間(150~300mPa・s)、濃い(300~500mPa・s)の3段階に分けている。中間のとろみを基本とし、中間のとろみは「脳卒中後の嚥下障害などで試されるとろみの程度を想定」しており、薄いとろみは「中間のとろみほどのとろみの程度がなくても誤嚥しない症例(嚥下障害がより軽度の症例)」を対象とし、濃いとろみは「重度の嚥下障害の症例を対象」とした程度のとろみとしている21)。このように、液体に粘性をつけると誤嚥を起こしにくくなるため適度な粘度の調整は重要であるといえる。以上のことから、摂食・嚥下障害者の経口摂取を可能とする食形態とは、軟らかく変形しながら咽頭を滑らかに通過する、バラバラになりにくく食塊形成しやすい、ベタつかずに適度な粘度がある食形態であるといえる。
次に、経口摂取が摂食嚥下障害者のQOLや栄養状態に与える影響について、経口摂取はQOLの低下を抑制し、栄養状態の維持・改善につながると考えられる。まず初めに、経口摂取とQOLに関して、多くの人にとって食べることは人生の大きな楽しみの一つであり、食べ物や人との触れ合い、五感から脳への刺激が心身を活性化させるなど、人に生きる喜びや楽しみを与えている22)。また、精神面でも人間としての尊厳を保つ原動力となることから、人間が人間らしく生きる上で経口摂取は欠かすことのできない条件と言える23)。このように、経口摂取は栄養摂取を図りながら、精神面でも生きる喜びと意欲をもたらし、QOLの低下を防ぐ重要な働きをしているといえる。次に、経口摂取と栄養状態に関して、長期的な非経口栄養とそれに伴う活動低下により、さらなる認知機能低下、口腔汚染、摂食・嚥下機能低下という悪循環をきたすことが示されている24.25)。
また、非経口栄養では、必要なカロリーや栄養素の確保が困難となりやすく、栄養状態が悪化することで低栄養となり、Alb値の減少、体重減少や筋肉や骨の減少に伴う運動機能の低下、免疫力の低下による感染症、体力低下による疾病の悪化、生活自立度の低下に伴う要介護の上昇などから、更なる栄養状態の悪化を引き起こす悪循環となりやすい26.27)。そのため、経口摂取により十分なエネルギーや栄養素の摂取をすることで、栄養状態の改善が見込まれ、低栄養の予防・改善につながる28)。また、経口摂取では口腔機能や摂食嚥下機能を維持・向上により、誤嚥を予防する効果も期待できる29)。
以上のことから、経口摂取が摂食・嚥下障害者のQOLや栄養状態に及ぼす影響について、経口摂取を行うことで、食事の楽しみや人間としての尊厳など精神的な面で満足感が得られ、摂食・嚥下障害者のQOLの低下を抑制することが可能となるといえる。また、経口摂取によるエネルギーや栄養素の補給により栄養状態の維持・改善につながると考えられる。そのため、摂食・嚥下障害者に対しては、食形態の工夫により経口摂取を維持することが重要であるといえる。
【参考文献】
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食管理特論の大学院レポート実例【課題2】
こちらは1回不合格になったので書き直したものです(;’∀’)
摂食・嚥下は、食べ物を認識し、口に運び、噛んで、飲み込み、胃に移送するという一連の過程をいう。本レポートでは摂食・嚥下の正常なメカニズムと摂食障害について、発達障害と中途障害別に医学的側面より説明をすることとする。
まず初めに、正常な摂食・嚥下のメカニズムについて説明する。摂食・嚥下の過程は、①食物の認知を行う先行期、②食塊形成のため固形物や半固形物を咀嚼する準備期、③随意運動により食塊を口腔から咽頭に送り込む口腔期、④嚥下反射により食塊が食道まで輸送される咽頭期、⑤蠕動運動により食塊が胃まで輸送される食道期の5期に区分できる1)。
①先行期は認知期とも呼ばれ、食物や液体の形や量、質などの認知を行う。食物や液体をどのようなペースで食べるのかを判断して実行する時期で、感覚や記憶などから目の前にある食物や液体が何であるかを認知し、どれだけ口に取り込むか、どのように処理するかを五感で判断する2)。②準備期では、飲食物を噛み砕き、飲み込みやすい形状にする。捕食により食物や液体が口に入ると、固形の食物などは口唇・歯列・顎の運動を利用して、口腔前部から後部へと送られ、咀嚼により粉砕・臼磨され、舌で食物を集めて唾液と混ぜあわされて食塊となる。食塊とは食べ物を口に入れ噛み砕き、唾液と混ぜ合わせてできる塊のことである3)。この時、後方では奥の舌がやや持ち上がり、食塊が咽頭に落ちるのを防いでいる。また、水などの液体の場合には取り込みの直後に口唇が閉鎖され、口腔前部から後部へと送られる。次に舌が食塊や液体を咽頭へ送る。準備期では、咀嚼中に食塊の一部が中咽頭へ送られるため、口腔期と重なる4)。③口腔期では、舌運動により自らの意思で口腔から咽頭へ食塊や液体を送り込む。液体の嚥下では次の咽頭期へと一気に進む。固形・半固形では、咀嚼が済んだ食物が中咽頭へ送られ、そこで食塊形成が行われ、咽頭期へ至る。舌の先から舌の側縁部を上顎に押し付けて食塊を包み込んで密閉し、舌の中央部を凹ませて食塊を集める。上顎と舌で密閉したまま、舌先から徐々に舌を上顎に押し付ける事で食塊を後方へ移動させ、嚥下により食塊が咽頭部に送られる。この時、食塊が鼻へ行かないよう、鼻腔に続く気道の一部である鼻咽腔が閉鎖される5)。④咽頭期では、嚥下反射によって誘発される自分の意志によらない不随意運動により、飲食物を咽頭から食道に送り込む。嚥下反射により、舌を上顎に押し付けて前方部を封鎖、軟口蓋(上顎の後ろ部分)を後ろに伸ばして鼻腔側を封鎖し、舌骨(喉仏の一番上にあるアーチ状の骨)を引き上げて嚥下する。この時に、左右の声帯も閉じられて、誤嚥を防ぐ6)。⑤食道期では、飲食物を食道から胃に送り込む。食道入口を通過した食塊は、食道の壁が収縮と弛緩を繰り返しながら胃に向かい輸送される7)。食塊が食道の入口を通過後、喉頭は急速に下降し、食道の入り口にある輪状咽頭筋が緩み食べ物を食道に流し込んだ後、再び収縮する8.9)。以上のように、正常な摂食・嚥下メカニズムは以上の5つの期に分けることができる。
次に、摂食障害について、発達障害と中途障害別に医学的側面より説明する。まず初めに、発達障害が原因となる摂食・嚥下障害について、発達障害とは、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」とされており10)、摂食嚥下障害の発生も低年齢である。発達障害が原因となる摂食・嚥下障害を器質的原因と機能的原因の2つに分けて説明する。初めに、器質的原因とは、症状や疾患が臓器・組織の変形、形成不全、腫瘍、異物など形態的な障害や異常などが原因となるものである。主な疾患として唇や上あごに亀裂が生じて生まれてくる口唇・口蓋裂、食道が途中で途切れている先天性食道閉鎖症、食道が狭くなっている先天性食道狭窄症、顎の形態の異常、腫瘍などがあげられる。次に機能的原因とは、構造物の形態には問題がないが、食物の通路を動かす筋肉、神経に障害があり、飲食物を上手く送り込むことが難しいことが原因となるものである。脳性麻痺、精神遅滞、ダウン症などの染色体異常、徐々に筋力が低下していく筋ジストロフィーなどがあげられる11)。摂食・嚥下に関連する口唇・顎・舌などの器官の発達はある程度決まった発達過程をたどる。しかし、障害児においては必ずしもそうではなく、捕食はできないが、咀嚼は可能という場合もみられ、摂食に関連する諸器官の発達や獲得時期の遅れも認められる。また、脳性麻痺などでは摂食時に口を開けすぎる過開口や、摂食中に舌を力強く突出する舌突出などの異常もみられる場合があり、食事を進める上で注意が必要となる12)。
次に、生活をしていく中でできた障害である中途障害が原因となる摂食・嚥下障害について、器質的原因、機能的原因、神経心理的原因の3つに分けて説明する。1つめの器質的原因では、口腔·咽頭期に病態があるものとして、舌炎、扁桃炎、扁桃周囲膿瘍、咽頭炎、喉頭炎、外からの圧迫(甲状腺、腫瘍、頸椎症など)があげられる。また、食道期に病態があるものしては、食道炎、潰瘍、変形、食道などの管部分の内膣が狭くなる狭窄、腫瘍など、口腔、咽頭、喉頭の腫瘍や炎症、その術後に生じるものなどがあげられる。2つ目の機能的原因では、加齢、脳卒中などの脳血管障害、パーキンソン病、小脳や脊髄の神経細胞が障害される脊髄小脳変性症、筋肉の萎縮と筋力低下をきたす筋萎縮性側索硬化症、神経の障害による運動機能の低下がおこるギラン・バレー症候群、筋肉が容易に疲労し脱力状態になる重症筋無力症、胃から食道へ胃酸が逆流する胃食道逆流など、脳血管障害や神経・筋疾患などの神経、感覚、筋系の障害をもたらす疾患が主体となる。高齢者においては、加齢による筋力低下、認知能力の低下など、予備能力の低下による摂食・嚥下障害で誤嚥を発症しやすくなる13)。そして、摂食・嚥下障害の原因となる病態として最も多いのが、機能的原因の1つである脳梗塞などの脳血管障害である。脳血管障害による嚥下障害は、球麻痺と仮性球麻痺に分けることができる。球麻痺の球は延髄のことを指しており、球麻痺は延髄の障害による麻痺である。延髄には、嚥下反射をコントロールする中枢があり、障害されることで摂食・嚥下障害を引き起こす14)。次に仮性球麻痺とは、偽性球麻痺とも言われ球麻痺に似た症状を呈するが、延髄の病変がなく、大脳や延髄より上部の脳幹部など延髄の働きを強化している部分の障害による麻痺症状で、口唇での食物取り込みが悪い、食物が口唇からぼろぼろこぼれる、咀嚼と食塊形成が不十分などの準備期や口腔期の障害が現れやすい15)。脳血管障害による嚥下障害は重度になりやすいと言われている16)。3つ目の神経心理的原因では、摂食の異常や嚥下困難を訴える患者のうち、理学的所見や検査上明らかな異常が見つからない場合、神経心理的要因が原因となる可能性がある17)。摂食障害、心気神経症、ヒステリー、うつ病、心身症(ストレス性胃潰瘍,神経性胃炎)などがあげられる。また、疾患以外でも、義歯の問題(合っていない、持っていない)等も摂食・嚥下障害の原因となる。
以上のような摂食・嚥下障害者では摂食・嚥下機能の低下により、誤嚥を起こす可能性が高くなる。誤嚥とは、食物や唾液などの分泌物が気道に流入することである。誤嚥は、図2のように嚥下運動前・中・後の3つに分類される。a.嚥下前の誤嚥は、咀嚼している最中でも、口腔内に食物を留めることができず、嚥下反射が起こる前に咽頭へ食物が流れ込むことで起こる。原因として舌コントロールの不良や嚥下反射の欠如、もしくは遅延があげられる。b.嚥下中誤嚥は、嚥下反射中に食塊が咽頭へ侵入することで起こる。脳血管障害による麻痺や加齢などで、嚥下反射惹起性の低下や咽頭挙上が不十分など、咽頭閉鎖機構の機能不全が起こり、嚥下中に食塊が咽頭へ侵入することで生じる。c.嚥下後誤嚥は嚥下反射の終了後、咽頭が元の位置に戻った後に、咽頭に残った食塊が喉頭に侵入して誤嚥するもので、3つのうちで最も多いと言われている18)。原因として上食道括約筋開大不全、咽頭収縮筋の機能不全、咽頭収縮力低下などによる嚥下後の咽頭残留があげられる。咽頭に達した食塊を全量食道に送り込むことができず、残留したものが喉頭閉鎖解除後に喉頭に侵入し誤嚥に至る。寝たきりや介護が必要な場合、上体だけを起こすと咽頭と気管がまっすぐになり誤嚥しやすいため、30度から45度にリクライニングさせた状態が安全であり、食後数時間はすぐ横にならず、お腹を圧迫しない程度に起こした姿勢を保つことが望ましい19)。
摂食・嚥下障害と誤嚥性肺炎について、厚生労働省の平成27年度の疾患別死亡者数の報告によれば、肺炎は第3位と年々その人数は増加傾向である20)。そして、肺炎の中でも誤嚥を原因とする誤嚥性肺炎が多くを占めている。誤嚥性肺炎とは、細菌を含む唾液などの口腔・咽頭内容物、食物を気管に吸引することで生じる細菌性肺炎である21)。誤嚥性肺炎は、むせなどの症状なくても無意識のうちに細菌を含む口腔・咽頭分泌物を微量に誤嚥する不顕性誤嚥によるものが多い22)。また、発達障害が原因となる摂食・嚥下障害でも、誤嚥は誤嚥性肺炎や窒息の危険性など生命に関わっており、重度心身障がい児の主要死因の半数は、肺炎と窒息であることから、誤嚥対策が重要であることが窺える23)。そして、高齢者の肺炎患者でも嚥下反射と咳反射の低下による、不顕性誤嚥により肺炎を発症する可能性が高い24)。現代社会において摂食・嚥下障害を呈する患者は急速に増加しており、早急な対策が必要であると考えられる。
【参考文献】
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