「先制医療」についてのまとめ|メリット・デメリットや課題

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先制医療とは

個人の遺伝子や生活環境に基づき、がんやアルツハイマー病など将来的にかかりやすい疾病を発症前に予測し、その病態・病因・メカニズムに合わせて薬や生活習慣の改善などの治療や介入をし、発症を防止するか、遅らせるという医療形態。

先制医療は英語で「preemptive medicine」

preemptive:「先手を取る、先取りする」のような意味で何かを未然に防ぐ

先制医療のメリット

  1. 医療費・介護費の抑制
  2. 治療成績の向上
  3. 健康寿命の延長

先制医療のデメリット

  1. 診断による患者の心理的・社会的不安や葛藤
  2. 治療法が確立されていない病気が多い
  3. 過剰医療をもたらす可能性

①診断による患者の心理的・社会的不安や葛藤

診断や予見を告げられることにより、患者の心理的社会的な不安や葛藤に陥る危険性が指摘されている。

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群などで発症前に予防的切除を行うケースでは、患者は「検査のストレス」「検査結果への不安」「予防的手術とその後遺症への不安」「子孫や血縁者の心理的・社会的・医学的不安への不安」「家族・友人や社会からの偏見への不安」に遭遇する危険性もある。

医療者や一般市民への啓発、遺伝子変異による差別に関する法的整備、遺伝カウンセリングの拡充や整備などが必要となる。

②治療法が確立されていない病気が多い

発症前に診断ができても現代の医療では治療法が確立されていない疾患が多い(がんやアルツハイマー病など)。

しかし、発症前に診断がつけば、早めの対処が可能にはなる。

③過剰医療をもたらす可能性

疾患にはいくつかの遺伝子といくつかのの環境要因が関与しているものも多く、先制医療による予測は100%ではなく確率的である。

そのため、「先制医療」により過剰医療をもたらす可能性があることが指摘されている。

先制医療の課題・問題点

  1. 先制医療のための疾患の病因・発生病理の解明
  2. バイオマーカー候補や治療方法をみつける必要
  3. 臨床における有用性や安全性の評価
  4. 先制医療を社会へ適切に提供するための科学的検討

③臨床における有用性や安全性の評価

発病した場合:予防できなかったことで、介入の失敗・無効は明らか。

発病しなった場合:予見的介入の成果なのか、単に自然経過・自己治癒力で発病しなかったかの判別は不能。

治療の前後で実際に痛みなどの症状がどのくらい変化したか(減少したか、不変か、増悪したか)を観て判断する。それは、患者も医療者も実感としてとらえることができるし、統計的数量的に算出することも容易であろう。

一方、「先制医療」での予見的介入では、未病の人であっても通常は健常者として行動しているので自覚的な症状の変化は期待できないし、また成功の指標ともなりがたい。

「先制医療」では、そのため、あらかじめ介入の評価のバロメーターを明示する必要がある。今後、「先制医療」の結果の公正な評価のためには、何らかのバロメーターを用いた予見的介入の長期間の後の効果判定法の新たな開発が求められるところである。

疾患原因遺伝子の変異情報蓄積など、また病気の進行の程度を示す指標となるバイオマーカーの開発が必要など課題も多くある。

先制医療と精密医療、予防医学の違い

先制医療、予防医療、個別化医療、精密医療のまとめ

先制医療と精密医療、予防医療の違いについて

「予防医学」と先制医療の違い

(今のところ)予防医学は集団をベースにした医療や介入であるのに対し、先制医療は患者個人レベルで個人の遺伝子など応じたオーダーメイドの介入を疾患発症前に行うという違いがある。

※サイトによって見解が違うのではっきりした定義は無いのかも…

  • 予防医学:疾患の予防や進展の防止などを含み、疾病の影響や原因を研究し疾病の予防や病気になりにくい心身の健康増進を図る医学。1次・2次・3次予防がある。
  • 予防「医療」と予防「医学」の違い:医療は医術によって治療すること、医学は生体の構造や機能、疾病について研究し、疾病を診断・治療・予防する方法を開発する学問のこと。

「精密医療」と先制医療の違い

精密医療では疾患の発症後の介入であるのに対し、先制医療は発症前の予防段階から介入する医療。

  • 精密医療(precision medicine):患者の個人レベルで最適な治療方法を分析・選択し、それを施すこと。

「ゲノム医療」と先制医療の違い

先制医療では、ゲノム情報やバイオマーカーに加え個人のライフスタイルや他の環境要因も考慮に入れる。

  • ゲノム医療 予防のためにゲノム情報やバイオマーカーを使用する。

まとめ:先制医療とは

先制医療とは、個別の遺伝子やバイオマーカーなどから病気の発症前に発見し、オーダーメイドでの治療や予防を行う医療である。

先制医療のメリット3つあり、1つ目に未然に病気を防ぐことのによる医療費の削減。2つ目に個々に対応した治療や予防を行うことができることから治療効果の増幅が期待できること。3つ目に事前に介護状態となることを防ぐことで健康寿命を延ばすことができることが挙げられる。

一方、先制医療のデメリットは病気になる前に発見されることから、将来への不安や精神的負担が増すことが挙げられる。また、がんやアルツハイマー病など発症前に診断を受けていても現代の医療では治療が難しい疾患も多い。また、病気を発症するかは確率によるため、過剰医療へ繋がる可能性が指摘されている。

そして、先制医療を行うに当たり課題も指摘されている。疾患の病因や何故発生するのかの解明が必要である。診断や経過観察に必要な遺伝子やバイオマーカーの情報が十分得られていないことから今後の情報の蓄積が求められる。診断後の治療方法の確立や臨床による有用性、安全性も大きな課題であり、研究を行う上で先制医療により予防できたのか、他の要因によるものなのかという評価が難しい。さらに、実際に行う際にあたり検討が必要であると言える。

先制医療は、個々に対応した医療を提供できる先進的な技術であるが、実際に行うに当たり課題も多い。今までは疾患の予防というと集団を対象にした医療であったが、先制医療のような個人を対象とした医療を提供することでより個々の健康に寄与することができると考える。

参考・引用

医学書院:先制医療「集団の予防」から「個の予防」へ

日経バイオテク:先制医療

村岡 潔:「先制医療」の理論的構造について

MSD:予防医学とは

Wikipedia:予防医学

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